最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 化粧室で鏡を見ると、顔が真っ赤になっているのが一目瞭然だった。

 これは、ファンデーションで誤魔化しようもない。私は大きく息を吐く。挨拶回りをする中で、何人かの方に『結婚のお祝いに』とその場で乾杯する流れになり、グラスでワインやシャンパンをいただいたのだ。

 お酒を飲めないわけではないが、あまり得意ではない。量もそこまで多くなかったのだが、アルコールを口にするのも久しぶりだったのもあり、あっという間に酔いが回っている。

 あと少し、あと少しだから、がんばらないと。

 自分に言い聞かせ、左手を見る。もらったばかりの結婚指輪と婚約指輪がキラキラと輝き、綺麗だと思う一方で私には勿体ない代物だと感じる。

 このドレスも、身に着けているアクセサリーも、全部お膳立てしてもらったものだ。

 背筋を伸ばし、化粧室を出て会場に戻ろうと歩を進める。その際、ある人物が視界に入った。

「鎌田社長」

 私が呼びかけると、彼はこちらに視線を向けた。

「これは、臨さん。挨拶回りが大変だろうけれど、ちゃんと楽しんでいるかな?」

「はい。ありがとうございます」

 気遣いに感謝しつつ、私はぎこちなく切り出す。

「あの、先ほどの病院の近くにホテルを建てるお話なんですが……」

「ああ、あの話」

「もしも祖母の……私の実家の土地も使ったら、もっと多くの方が利用できたり、ほかの用途に使えたりするんでしょうか?」

 おずおずと尋ねると、鎌田社長が目を丸くする。続けて彼は神妙な面持ちになった。
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