最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「臨さん、誤解をさせたら悪かったね。さっきの話をしたのは、そういう意図じゃないんだよ」

 真剣な声で返されるが、私はなにも言えない。けっして鎌田社長がうちの土地を手に入れられなかった件に対して不満があってあの話をしたのではないとわかっている。でも……。

「あのね、どちらかというとぼくは正直うれしいんだ」

「え?」

 目を瞬かせる私に、鎌田社長は優しく笑った。

「貴治くんがね、『あの土地は、妻の祖母の家で彼女が育ってきた大切な場所です。彼女と親族の間で齟齬があったらしく、妻は手放すつもりはないんです。その意思を尊重したいので、申し訳ないのですが、購入をあきらめていただけませんか』とわざわざぼくに頭を下げてきたんだ」

 貴治さんとしては、会社としても個人的にも付き合いのある鎌田社長のために、あの土地を彼に売りたかっただろう。実際、叔父は売ろうとしていた。

『後悔するぞ。君以外、みんな売った方がいいと思っている』

 あのとき、ただ冷たいとしか感じなかった彼の言葉は、鎌田社長がホテルを建てようとしている目的も聞いていたからなのかもしれない。

 でも、どうして結果的に土地が手に入らなかったのがうれしいのか?

 そこで鎌田社長と視線が交わる。私の疑問を見透かしたかのような余裕のある表情だ。

「そうやって、誰かの想いを汲める貴治くんが素晴らしいからだよ。彼はビジネスマンとしては非常に優秀だ。きっと二神不動産をもっと大きくさせるだろう。でもね、あまりにも利益や成果を最優先にしすぎるところがあって、お節介にも少し心配だったんだ」
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