最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
第二章
「ね、臨。今度、同期で飲みに行こうって話しているんだけど、どう? 営業部の面々も来るって」

 職場の昼休み、テラスで持ってきていたお弁当を広げていると、同期の宗石(むねいし)信子(のぶこ)がウキウキと声をかけてきた。染めたばかりだというアッシュグレーの髪が肩下で揺れ、アイラインとマスカラたっぷりで強調された目が細められる。そしてオレンジ系のリップが塗られた唇が弧を描いた。

「臨のこと紹介してほしいっていう人もいるらしいよ。これはもう行くしかないんじゃない?」

「うん。考えておくね」

 苦笑しつつ答えると信子は綺麗な顔がゆがむのも気にせず、眉をひそめた。

「考えておくだけじゃなくて、行くって返事しなさい、今すぐに!」

 なにも言わず困惑めいた笑みを浮かべていると、信子はため息をついた。

「あのね、臨。無理にとは言わないけれど、行ってみたら楽しいかもよ? おばあさまのことはつらかったと思う。でも、臨まで元気をなくしたら、だめだよ」

「……ありがとう」

 信子の気遣いはわかっている。祖母が亡くなり……正確には祖母が倒れてから、ずっと塞ぎ込み気味になっている私を信子は心配してくれているのだ。

 こうしてなにかと誘ってくれているのは彼女の優しさだと知っている。だからあえて私から話題に触れた。

「この前の日曜日に四十九日が無事に終わってね」

「そっか」

 ぽつりとつぶやくと信子は聞く姿勢をとった。
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