最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 あのとき一緒に食事をしていたのは、末永さんだったの?

 彼女を凝視しすぐにパッと逸らす。

 だったらどうなのか。どんな理由でも、ましてや仕事絡みなら貴治さんが誰と食事をしても私に口を出す権利はない。

 心臓がドキドキと早鐘を打ちだし、息が苦しくなる。

「臨、大丈夫か?」

 貴治さんに声をかけられ、ハッとなる。

「顔が赤い。体調は?」

 指摘され、迷いつつも正直に答える。

「すみません、ちょっと酔いが回っちゃって……」

 私の告白に、貴治さんは目を丸くした。対照的に末永さんは小さく噴き出す。

「あらあら。こういう場ではアルコールもある程度飲み交わせないと……。でも奥さん、慣れていらっしゃらないものね。しょうがないわよ」

 なんとなく小馬鹿にした言い方に聞こえるが、今は気に留める余裕もない。すると貴治さんに、突然肩を抱かれた。

「とりあえず少し休んだ方がいい」

「だ、大丈夫です」

 とっさに答えたが、くらくらしてふらつきそうになる。

「彼に従うといいわ。まだご挨拶できていない方もいらっしゃるでしょうけれど、その様子じゃ余計な心配をかけるだけだもの。貴治さんの妻としても」

 末永さんの言葉はその通りで、胸に刺さる。するとすかさず貴治さんが口を開く。

「心配しなくても、挨拶したい人にはすべてできた。もうすぐでお開きだろうから気にしなくていい」

 貴治さんに促され、その場を後にしようとする。

「貴治さんは戻ってきますよね? 前みたいに上のラウンジで飲み直しましょう」

 背中越しに投げかけられ、つい立ち止まりそうになる。

 しかし貴治さんはなにも返さず、私の肩を抱いたままドアの方を目指した。
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