最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 てっきり会場の外にあるパブリックスペースで休まされるのかと思ったが、貴治さんはそこを通り過ぎエレベーターへと向かった。さらに上へ向かうボタンを押したのでわずかに動揺する。

「あの、どちらへ?」

「上に部屋をとってある。そこで休むといい」

「え?」

 彼の回答に目を丸くする。遠方からのゲストはともかく、私たちのマンションからはそう遠くない。てっきり、終わったら帰るつもりでいた。

 そこで考えを改める。先ほど、貴治さんは末永さんに当然のようにラウンジに誘われていた。明日は曜日だし、こういった場合はおそらく泊まるのが普通なのだろう。

 やっぱり私と彼とでは〝当たり前〟が違いすぎるんだ。

 エレベーターが止まり通された部屋は、宿泊室というより独立した住まいのような広さで、驚きで足が止まった。

 独立したリビングルームがあり、ベッドルームはまた別にあるらしい。白とベージュを基調とした明るい雰囲気で、高級感漂う家具はゆったりと配置されている。リビングにある特大の窓からは夜景が一望できる仕様だ。

 これが、俗にいうスイートルームと呼ばれるものなのか。

「座ったらどうだ?」

 立ちすくんでいる私に、貴治さんが声をかけてくる。

 おとなしく立派なソファにちょこんと腰を落とした。場違いな感じに緊張してしまい、アルコールで頭が回らず身をぎゅっと縮める。

 すると彼が近くまでやってきた。

「気分は?」

「大丈夫です」

 反射的に答えたが、貴治さんはあきれた顔になる。
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