最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「そんな顔で言われてもあまり説得力ないな」

 貴治さんは軽くため息をついた。

 確かに化粧室で見たときも顔が赤かったが、今はあのときより酔いが回っている自覚がある。

「酒、苦手なのか?」

 なんだか咎められている気になった。しかし、嘘をつくわけにもいかない。

「あ、はい。あまり得意ではなくて……。飲んだのも久しぶりだったので」

「だったら無理する必要はなかっただろ。笑顔でグラスを受け取って飲んでいるから、気づかなかった」

 どこか怒っているように見えた。やはり迷惑をかけて、途中退席させてしまったからかもしれない。

「すみません。断るのは失礼だと……」

 小声で弁明するが、いたたまれなさに貴治さんの顔がまともに見られない。ぎゅっと唇を噛みしめ、極力明るく続ける。

「私、本当にもう大丈夫ですから、貴治さんは会場に戻ってくださいね」

 もう挨拶をする人はいないと言っていたが、やはり次期社長の立場として最後まで会場にいた方がいいだろう。

『その様子じゃ余計な心配をかけるだけだもの。貴治さんの妻としても』

 情けない。至らない点ばかりが頭をよぎって、胸が苦しい。

 でも、これでいいんだよね。ダメな妻だって認識された方が、離婚理由としてもわかりやすくて……。

「水を持ってくる」

「あ、自分で――」

 立ち上がった瞬間、バッグにしまってあるスマートホンが振動する音が聞こえる。マナーモードにしていたが、静かな部屋だとよく響き、長さから電話だと判断する。
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