最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 こんな時間に私に用事って誰だろう?

 出るかどうか悩んだが、バッグを開け画面を確認する。そこには意外な人物が表示されていた。

「すみません、仕事の電話みたいで……。ちょっと出ますね」

 貴治さんにひと言断りを入れて電話に出る。相手は、矢代先輩だった。

『高松、お疲れ。今、電話大丈夫か?』

「お疲れさまです。どうされました?」

 仕事が休みの日にどうしたのか。彼はやや興奮気味に続ける。

『喜べ。カルペ・ディエムの特別ペアディナー、営業から一枠譲ってもらったぞ』

「え?」

 驚きの声をあげる私に対し、先輩はどこか得意げだ。

『来週の水曜日のディナーに空きがあるそうなんだ。急な話だし、先に都合を聞いた方がいいと思って。無理ならほかに回すから』

「あ、大丈夫です」

 手帳を確認したわけではないが、おそらくなにもない。私の返事に先輩は電話の向こうで笑った。

『お前の情熱が通じたな。用件はそれだけだ。詳細は月曜日に』

「わざわざありがとうございます」

『こっちこそ休みの日に突然、悪かったな。おつかれ』

 そう言って電話は切られる。

 カルペ・ディエムのメニューを楽しめる日がついに来たのだ。ずっと行きたいと願っていた。もっと喜ぶべきなのにその感情が湧かない。

「急ぎの用件だったのか?」

 貴治さんの声でハッと我に返る。いつの間にか、ミネラルウォーターの入ったブルーのおしゃれな瓶と空いたグラスを持ってきてくれていた。
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