最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「いつもなら断っています。今日は、貴治さんの妻として紹介されているから……。場の雰囲気を壊したり、悪く思われたりしたくなかったんです」

 訴えつつも胸が苦しくて、唇を噛みしめる。

 でも、ほかの人の目を気にするなら男の人とふたりで食事に行くべきてはない? 傍からの目を気にして?

『貴治さんは戻ってきますよね? 前みたいに上のラウンジで飲み直しましょう』

 思考があちこちに飛ぶ中、先ほどの末永さんの言葉が頭に響く。

「……貴治さんだって、末永さんとご飯を食べに行っているじゃないですか」

 気がつけば、想いが口を衝いて出ていた。

「結婚しても、ふたりで会って……この後も飲みに行くんですよね?」

 貴治さんは虚を衝かれたような顔をしているが、栓を抜いた勢いで止められなくなる。

 末永さんと貴治さんの本当の関係はわからないけれど、それなりに親しいのは間違いない。私よりもずっと。

「仕事だとしても……どうして貴治さんはよくて、私はだめなんですか?」

 声にしてすぐに後悔する。

 こんなの言いがかりだ。なにをムキになっているんだろう。結婚していても、私たちは対等な関係じゃないのに。

 冷静な自分が訴えかけてくるが、あとの祭りだ。

 私は貴治さんにどうしてほしいの? この感情はなに?

 信用されてなくて悲しいのか、貴治さんだけズルいという気持ちなのか。矢代先輩とカルペ・ディエムに行くのを認めてほしいのか。

 どれも違う。私は――。
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