ありふれた日常こそ、尊い。
「母さんは、俺を産んでからすぐに離婚して、女手一つで俺を育ててくれたんだ。朝から晩まで働いて、、、自分のことなんて二の次で、今まで無理してきたのが、今になって癌となって身体を蝕んでるのかもしれない。母さんのことが心配だから、同居を提案したんだけど、母さんは"凪の人生の邪魔をしたくないから、同居はしない"の一点張りで、、、。だから、週2でヘルパーさんに来てもらってて、通院は俺が付き添ってる感じ。」
凪はそう言うと、ビールを一口飲み、小さな溜め息をついた。
「それで母さんがさ、最近やたら"恋人は?"って訊いてくるようになって、、、余命は伝えてないのに、何だか自分の余命を分かっているような感じでさ。"あんたのお嫁さんに会うまで死ねない"とか言い出すし。」
そう言って、凪はテーブルの一点を見つめながら切なげに笑った。
「だから、、、せめて、恋人はいるって言ったら安心してくれるかなって思ったら、紹介して欲しいって言うから、どうしようって思って。それで、一日だけでいいから、美月に彼女のフリしてもらえないかなって、お願いしたんだ。一度会えば、母さんの心配も減らすことが出来るかなって、、、だから、美月、」
と凪がまだ話しているのを遮り、わたしは「いいよ。」と言った。
「え、、、本当に?」
「そんな話聞かされて、"嫌だ"なんて言うわけ無いじゃない。凪のお母さんに安心してもらえる手伝い、わたしにさせて?」
わたしはそう言いながら、涙を流していた。
凪は涙を滲ませ微笑むと、「ありがとう。」と言い、「美月って、良い奴だな。」と呟いた。
「え?今気付いたの?」
「ただのモテ女だと思ってた。」
「はぁ?!凪だって、ただのモテ男のくせに!」
「あ、間違えた。ただのモテ女じゃなくて、オタクのモテ女だった。」
「なぁ〜ぎぃ〜!」
わたしが涙を流しながらそう怒ると、凪はケラケラ笑いながら「ごめんごめん!」と言った。
家族の事となると、他人事とは思えないわたし。
そう思う理由は、わたしの過去にあった。