ありふれた日常こそ、尊い。
「さて、飲んで食べるぞー!わたし焼鳥食べたい!」
「どうぞ、お好きなものを食べてください。」
「遠慮しないよ?」
「いいよ。」
テーブルに腕をつき、優しい表情でそう言う凪。
今こうして何でもない素振りをしているけれど、本当はどんな時でもお母さんのことが心配で仕方ないんだろうなぁ。
家族を失う悲しみは、わたしは充分に味わってきた。
だから、凪には、、、出来るだけその日が遠退いて欲しい。
わたしはビールを一気飲みすると、「すいませーん!レモンハイと焼鳥お願いしまーす!」と店員さんに向けて手を上げ、注文したいアピールをした。
「おい、ペース早くないか?」
「大丈夫大丈夫!もし寝ちゃったら、凪が居るから!」
「介抱される気満々じゃん。」
そう言って呆れ顔をする凪だったが、どこか安心したような表情をしていた。
"母さんの不安を減らしてあげられる"
そう思ってくれていたらいいなぁ。
そしてその日、わたしは酔って変にテンションが上がってしまい、凪に絡みつきながらタクシーに乗せられた。
しかし、タクシーに乗り一人になった途端、我に返ったようにさっき聞いた凪の話を思い出し、切なくなってしまった。
流れゆく窓の外を眺め、手を繋ぎ仲よさげに歩くカップルや、仕事帰りに飲みに行ったんだろうなぁ、というような複数人の男女を見掛け、わたしは思った。
みんな笑っているけれど、その一人一人には、それぞれ抱えている何かがあるんだろうなぁ。
悲しみなんて無くなればいいのに。
でも、悲しみがあるから幸せを感じられるのかなぁ。
生きるって、難しいなぁ。