大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】
「オレはあんたに危害を加える者じゃない。大声を出さない、逃げないと約束ができるなら離してやるよ」

押さえつけている男の手から少し力が弱まった。
ミトはコクコクと頷いた。
男はゆっくりとミトから離れる。
完全に手が離された瞬間、ミトはダッシュで逃げようとした。

「チッ!」

男は再び舌打ちをすると、素早い動作でミトの足掴んだ。
ミトはバランスを崩してベッドから落ちそうになるが、男に支えられて何とか落ちずに済んだ。

「全く活発な姫さんだな。油断できねー」

乱暴な口調だが、声や表情に敵意や悪意は感じない。
ミトは少しだけ冷静さを取り戻す。

「得体の知れない人との約束なんて無効だわ。あなた、誰なの?」

一番知りたいことを男に聞いてみた。

「もちろん、ローザン王国の王子、セルファだ」

「違うわ」

「即否定かよ。何を根拠に?どこをどう見てもセルファだろ?」

「根拠なんてないわ。でも、あなたがセルファじゃないってことだけはわかるわ」

「その考え、覆す気はねーのか?」

「ないわよ。だって、あなたはセルファじゃないもの」

男はミトをまじまじと見た。

「ラミリアの血筋には、稀に特殊な能力を持って生まれてくる者がいるらしいな。おまえがそれか?」

「とにかく、足離してよ。もう逃げないから」

相変わらず目の前の男は正体不明だが、少なくとも自分に危害を加える気はないことがわかり、ミトは逃げるのではなく状況を把握することにした。
男は無言で手を離してくれる。
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