大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】
「ローザンに王子が2人いるなんて、聞いたことがないわ…」

やっと、ミトが口を開いた。
ローザンには第一王位継承者としてセルファ王子が、そして、その他に姫が2人いるだけのはずだった。

「その通り。世間的にはローザンの王子は1人だけになっている」

「なっているって…意味がわからないわ」

そんなミトの様子に影は少し苛ついた。
なぜ自分がこんな説明をしなければならないのか。

「あんた頭悪いの?オレはセルファの双子の兄弟で、生まれたその瞬間に存在を抹消され、あいつの影武者として生きているってことだよ」

「それって…」

ミトは頭では理解していた。
しかし、あまりにも非人道的で、心が理解を拒否する。

「あなた、名前はなんて言うの?」

混乱し、突拍子のない質問をしてしまうが、今ミトが純粋に知りたいと思ったことがそれだった。
ミトは影の名前を聞くことで、少しでもこの男をセルファとは別の人間として認めたいのだ。

「オレの名前?」

しかし、ミトの唐突な質問に、影は戸惑う表情を見せた。
先ほどの余裕たっぷりで意地悪な顔とは全然違う。
影の返事は、ミトにとって絶望的なものだった。

「さぁ…」

首を傾げる影。

「オレに名前なんか、ないんじゃねーの」

「そんな!」

愕然とするミト。
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