悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「彼女は踊り子ではなかったのですね。驚きました」

「素晴らしい舞でしたね。とても素人の舞には見えませんでした」



ロイと同じルビーの色の瞳に驚きの色を浮かべて2人の皇子が私を見つめている。



「愛らしさもあり、それでいて美しさもある。魔法薬で見せる幻想と少女の舞は芸術でしたわね」



皇后も皇子たちと同じように驚きながらも興味深そうにそう言って微笑み、私を見ていた。

この場にいる全員がやり過ぎなほど私の舞を讃えていた。

ただリタだけは違った。
皇族一人一人の言葉ににこやかに頷いているが目が笑っていない。
自分が話題の中心ではないことが不満なのだろう。
長年リタの代役を務めただけにリタが今何を考えているのか手に取るようにわかる。

きっと私が今リタの代役をしているのなら、甘えた声でおずおずとロイに「とても素敵でしたが、私のことも見て欲しいです…。他の女の子を見て欲しくないですわ」とか言うだろう。

リタはどうすのだろうかと何となくリタの様子を見ていると、リタは自分の隣に座るロイの服の袖を不満げにだが、遠慮がちに引っ張り、上目遣いでロイを見ていた。
ロイはそんなリタに気がつくと子どもをあやすようにただ軽くポンッとリタの頭に触れ、その後は特に何もしていなかった。

思ったより控えめなリタに拍子抜けだ。
もっとわがままお嬢様を発揮すると思ったが、一応皇族の皆様の前だからか遠慮しているらしい。

私は一通り皆様からの有り難い言葉を受け取ると最後にもう一度深々とお辞儀をしてこの食堂を後にした。




*****




「お疲れ様。とても素晴らしい舞だったよ」



夕食会が終わった後、お風呂に入ってのんびりとしているとそう言ってにこやかにロイが私の部屋に現れた。

また来たよ。

ロイが何度も何度もここを訪れるせいでもうここではほぼずっとロイと一緒にいる。
一緒にいたくないのに。




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