悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




「大変有り難いお誘いなのですが明日はすぐに帰る予定ですので…。それにロイ様にはリタ様もいらっしゃいますし、あまり私にばかり構われては…」



リタ様が機嫌を損ねてしまうでしょう?

最後の言葉だけわざと口には出さず、伺うようにロイを見る。
ロイはリタとの契約でリタを人前では婚約者として最低限扱わなければならない。
私からリタの話が出れば私よりもリタを優先するしかないだろう。



「リタのことかい?気にしないで。リタとはいつでも会えるけどステラとはなかなか会えないからね」



しかしロイはまさかの全くリタを優先しなかった。
しようとする素振りさえも見せなかった。

予想外だ。せめてリタへの愛を語りながらステラを優先しようものならそこをついてリタを優先しろと強く押そうと思っていたのに。



「…私なんかより婚約者のリタ様を最優先すべきです」

「何故?僕は僕のしたいようにするよ?それに僕たちの関係は特殊でね。婚約者だからと最優先する必要はないんだ。だからステラは何も気にしなくていいんだよ」



苦し紛れに言った私の言葉をロイが笑顔でバッサリと切り捨てる。
私はそんなロイを見て心の中で盛大なため息をついた。

まさかの契約を軽く無視しているではないか。
ただの何も持たない平民の私がこれを聞いたからいいものの、他の誰かが今のロイの発言を聞いてみろ。
ロイはリタを愛していない、と瞬く間に帝国中に広まるはずだ。




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