悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ピエール様がお呼びです。急ぎ確認したい事項があるそうです」
「そうか。わかった」
ピリついていたロイだが、メイドの言葉を聞くと雰囲気を和らげ、その場から立つ。
そして「ステラ、少し席を外すよ。すぐ戻ってくる」と申し訳なそうに笑い、急いでロイの右腕でもあるピエールの元へメイドと共に向かった。
ロイの様子からして何か重要なことなのだろう。
例えば今帝国中の話題になっているロイが探している重要人物が見つかった、とか。
ロイがいなくなっても私は気にせず、苺のお茶会を続けた。
美しい中庭をぼーっと眺め、紅茶に口を付ける。
それから苺を一粒取って齧った。
とても穏やかな時間だ。
「ちょっといいかしら?」
後ろから聞き覚えしかない声が私に話しかけてくる。
う、嘘でしょ?
「…はい」
私は振り向きたくはなかったが、そんな選択はもちろんできないので、仕方なく後ろを振り向いた。
そしてそこにはあのリタが立っていた。
「…リタ様。昨日はありがとうございました」
リタが何かを言う前に私は慌てて席から立ち、リタに頭を下げる。
ここできちんとしなければ確実にリタの逆鱗に触れるからだ。
今の私は昨日の私のように顔を半分隠していないが、万が一の保険の為に認識齟齬の魔法薬は使っていた。
本来の19歳の姿ではないこともあり、ボロさえ出さなければリタにあのステラだと気付かれることはないだろう。