悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「…昨日?ああ、あの舞のことね。あれは本当に酷いものだったわ」



顔を上げてリタを見れば、リタは嫌なことでも思い出したかのようにその美しい顔を歪めていた。



「プロの踊り子でもない平民のお遊戯会だったわね。魔法薬を使って誤魔化そうとしていたみたいだけど私の目は誤魔化せないわよ?」

「…」



お遊戯会なのは認めます。私もそう思います。

リタの言葉に同意しながらも私はもちろん何も言わない。ここは辛そうにしておくのが無難だ。
リタを良くも悪くも刺激しない方がいい。



「どこの馬の骨かわからない平民風情が。何故この帝国一神聖な宮殿にいるのかしら?いくら陛下に招待されたとはいえ、断るのが筋でしょう?」



そう言いながらも扇子をバサっと広げて口元を隠し、その特徴的な猫目を細めてこちらを見下すリタに、私は嫌悪感よりも懐かしさを感じてしまう。

リタといえばこんな感じだった。
数ヶ月ぶりに再開しても裏で悪女と呼ばれるリタの性格は健在だ。
私もよくリタの代役としてこうやって酷い言葉をリタが気に入らないであろう人たちに浴びせてきたものだ。
もう今の私には関係のない話だが。



「それに何故アナタがロイ様とお茶をしているのかしら?汚らしい平民の女がロイ様と少しお話しできたからって勘違いしちゃったのかしら?いい?アナタはロイ様と同じ空気を吸うことだって許されないのよ」



そこまで言うとリタはテーブルに置かれたポットに手を伸ばした。
リタの思考なら手に取るようにわかる。
なのでこの後のことも大体想像ができてしまった。




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