悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ユリウス、私は大丈夫だから。それに私を抱えたままだとユリウスまでびしょびしょになっちゃうよ」
「これくらい平気だ。気にするな」
「ユリウス、ステラは君に自分を下せって言っているんだよ?」
苦笑いを浮かべ、抱き抱えることをやめるようにやんわりと私はユリウスに伝えたのだが、ユリウスには伝わらない。
そして私の言いたかったことをロイが何故か嫌な言い方で代弁した。
棘のある言い方だ。
「…行こう、ステラ」
ユリウスはそんなロイをあろうことか何と無視し、冷たい表情のまま、私を一度見て、ついに歩き出した。
その目はどこか憂いを帯びており、ユリウスの怒りや後悔などいろいろな複雑な感情を感じてしまった。
「ユリウス」
ロイが静かにそんなユリウスの名前を呼ぶ。
ユリウスも怒ってはいるが、さすがにもう無視はできないと判断したのだろう。
ユリウスは足を止めてまたロイの方へ視線を移した。
「ステラを独占しすぎないことだ。そちらがその気ならこちらだって本気を出すよ。ステラをうちの所属に無理矢理したっていいんだからね?」
にっこりとロイがこちらに微笑む。
とても美しい笑顔だが、その目は一切笑っていなかった。
お、脅しているじゃん。
私の意思関係なく私を勝手に宮殿所属にされても困るんですけど。
仮に宮殿所属になんてなってしまうと、ルードヴィング伯爵に見つかる可能性しかないし、リタに正体がバレるのも時間の問題になってしまう。
「…」
ロイの脅しにおたおたしていたのは私だけで、ユリウスは特に何か言うこともなく、ロイに深々と一礼するとさっさとその場から離れた。
そして私はというとその後一度、宮殿に用意されていた私の部屋に戻って服を着替え、陛下に軽く挨拶をしてからこの宮殿をユリウスと共に後にした。
こうして怒涛の三日間はバタバタと幕を閉じたのであった。