悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
第5章 狂愛のご令嬢と次期公爵
1.危機 sideユリウス
sideユリウス
ステラをもう1人で宮殿に向かわせる…いや、1人で行動させる訳にはいかない。
俺は宮殿内の騎士団鍛錬場で1人、剣を振るいながら、数日前の出来事を思い出し、改めてそう思っていた。
3日間、ステラがいないというだけで、俺は何か大切なものを失ってしまったかのような喪失感を感じていた。
そしてようやく3日という長い時間が過ぎ、ステラの宮殿滞在最終日。
一刻も早くステラに会う為に迎えに行けば、あれだ。
ステラは何故か頭からつま先まで全身がびしょ濡れになっていた。
誰かに故意にやられてしまったのだ。
その誰かとはおそらくその場にいたリタ嬢なのだろう。
ステラのあんな姿を見せられたあの時の感情が今でも忘れられない。
腹わたが煮えくり返るとはまさにこのことなのだとあの時初めて知った。
もしあの時、自分の腰に剣があったのなら、きっとそれを抜いてその原因であるリタ嬢に俺は剣先を向けていたことだろう。
もうステラをあんな目には遭わせない。
その為なら皇族に背いたって構わない。
だから数日後、ステラ宛に届いたロイ殿下からの手紙も内容をざっと確認した後、俺はさっさと処分した。
ロイ殿下からの手紙の内容は、先日起きたことへの謝罪から始まり、宮殿でのステラとの想い出が綴られ、最後には宮殿へいつでも来られるように許可が降りたのでまた遊びに来るように、というものだった。
謝罪こそステラが見るべきものだったので直接俺が口頭で伝えたが、あとのことは特に必要ないと思い、伝えてすらいない。