悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「おう、ユリウス。今日はやけに殺気立っているな」
どうしても腹が立ち、剣を振るう手に力を込めていると、そんな俺におかしそうに燃えるような真っ赤な短髪が特徴的なハリー・クラーク隊長が話しかけてきた。
クラーク隊長は現クラーク伯爵の弟であり、帝国騎士団の第二部隊、隊長だ。
父と同世代のクラーク隊長には俺と同世代の娘がいるらしく、俺がここへ所属してからというものいつもクラーク隊長は俺のことを自身の子どものように気にかけていた。
「何かあったのか?」
「いえ」
「そうかそうか」
黒色の瞳を細めてにっこりと笑うクラーク隊長に淡々と必要最低限の言葉を返せば、クラーク隊長は慣れた様子で豪快に笑い、ただ頷く。
「ところでユリウス。この前の話なんだが…」
そしてそのままの流れでクラーク隊長は〝あの〟話をしようとし始めた。
「…」
「おいおい。そんな顔で見るな。まだ何も言っていないだろう?」
そんなクラーク隊長に俺はもううんざりだと抗議の視線を送る。
するとクラーク隊長はその大きな肩をおかしそうに落とした。
〝あの〟話をされるのは今週だけでもう5回目だ。
クラーク隊長に会うたびに〝あの〟話をされているのでもう話を聞くだけでも嫌になる。