悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「俺の家からですか?」

「ああ。何か知らないか?ハリー卿よ」



扉の向こうから聞こえる声は2つ。
一つはフランドル公爵のもので、もう一つは知らない男の人のものだ。

声の感じからおそらく公爵と同世代くらいの人だということはわかった。

公爵と同世代で公爵からハリーと呼ばれる男…。

リタ代役時代の記憶の中から頭をフル回転させて何とか公爵の話し相手である男の正体を炙り出そうとする。

…あ。

数秒間考え込んだ後、ついに私の頭の中にある人物が思い浮かんだ。

ハリー・クラークだ。
彼は現クラーク伯爵の弟で、確か今は帝国騎士団の第二部隊、隊長を務めていたはずだ。

そこまで考えて私はさらにある人物を思い浮かべた。
ハリーにはアリス・クラークという17歳の娘がいる。
彼女は学院でも有名なユリウス信者だった。

とにかくユリウスは見た目だけはため息の出るほどの美しさを誇る。
そんなユリウスに密かに思いを寄せる人は多い。
あの氷のような冷たさにも耐え、ユリウスへの思いを口にできる強者のことを学院の生徒たちはユリウス信者と呼んでいた。

ユリウス信者の中でも特にアリス・クラークは苛烈だと有名だった。
アリスの前でユリウスへの思いを言おうものなら、その場で制裁という名の平手打ちを食らったり、また後日、魔法薬を使ったのか謎の体調不良を誘発させられたりするのだ。



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