悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜

3.クラーク邸内の捜索





「いいか、ステラ。クラーク邸では1人で行動せず、ジャンと共に行動するように」

「はい」



公爵邸の馬車の中で向き合うように座るフランドル公爵が、冷たい表情のまま念を押すようにそう言う。
私はそんな公爵に真剣な表情で頷いた。

この馬車は今、行方不明のユリウスの情報を少しでも掴む為に、クラーク邸へと向かっている。この馬車に乗っているのは私と公爵だけだが、クラーク邸へと向かっているのは私たちだけではない。
フランドル公爵邸の騎士たちも数十名ほど騎士専用の馬車や馬で一緒にクラーク邸へと向かっていた。

私の目の前でユリウスによく似た冷たい表情を浮かべている公爵を盗み見る。
私は先ほどまでそこにいる公爵によって、クラーク邸内捜索への同行を反対され、許されていなかった。
ユリウスに何かあったかもしれない場所を捜索する為、私にもその何かがあってはならないと懸念してのことだった。

だが、私はどうしても公爵たちに同行したかった。
理由は私だけがユリウスの行方不明にアリスが関係していると考えているからだ。

他の者はユリウスがクラーク邸に行って以降帰って来ない、という情報しか知らない。
私だけがもしかしたら1人だけ真相に近いのかもしれないのだ。そんな私が捜索に同行できないとなれば、きっとユリウス発見も遅れてしまうだろう。

だから私は何度も何度も公爵に頭を下げてお願いをし続けた。
最初こそ、公爵はそんな私の願いなど聞き入れようともせず、突っぱねていた。
だが、あまりにも私が食い下がるので最後には公爵の方が折れ、同行を許してくれた。

そのお陰で私は今、ここにいる。

ほんの数十分前のことを思い浮かべながらも、私は何となく窓の外を眺めた。
窓の外には緑豊かな町とその町の向こうにある公爵邸と比べれば質素だか、趣のある屋敷の姿が見える。
あの趣のある屋敷こそがクラーク邸だ。
そこから数分で馬車は止まり、私たちはやっとクラーク邸に到着した。




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