悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
5.本来の姿
私にはもう時間がない。
まもなく日が沈み、夜がやってくる。
さっさとここから離れたかったが、皇太子の呼び止める声を無視するわけにもいかず、私は焦る気持ちをぐっと抑えて、一旦その場で止まると、ロイの方へと振り向いた。
するとこちらを不満げに見つめるロイの姿がそこにはあった。
「今日1日付き合ってもらうと言ったはずだよ?まだ1日は終わっていない。どこに行こうとしているのかな?」
笑顔ではあるが、私の行動を責めるようなロイからの視線が痛い。
痛すぎるが、これに負ける訳にはいかない。
「…私には約束があります。そろそろ行かなければ間に合わないんです」
「約束…。そう…。それは皇太子命令よりも優先するべきものなのかな?」
「…」
ロイに負けまいとさらりと嘘を言ってみたが、ロイから〝皇太子命令〟を出されてしまい、何も言えなくなってしまう。
皇太子命令よりも優先されるべきものなど、この帝国内では皇帝命令以外に存在しない。
皇帝との約束なんてもちろん嘘でも言えない為、ここで私は詰んでしまった。