悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
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遡ること、数時間前。
今日の主役であった私、ステラ(19)は宮殿内に用意された部屋で婚約式へ向けての準備を進めていた。
「リタ様、大変お美しゅうございます」
「さすがですわ。磨けば磨くほど輝く、リタ様以上に美しい方はこの世には存在しないでしょう」
「まさに我がミラディア帝国の美の女神ですわね」
大きな鏡に映された〝リタ〟を大絶賛する周りのメイドに私は形の良い唇をフッと緩める。
ただ機嫌良く笑っただけでも美しく魅力的なのだからメイドたちの〝リタ〟に対する大絶賛はあながち間違っていない。
鏡に映る美女の名前はリタ・ルードヴィング(18)。
メイドたちが言うようにとんでもない美女でスタイルも抜群だ。
アメジスト色の猫目からは意志の強さを感じ、腰まである絹のように細いシルバーのふわふわの髪からは常に甘い花のような香りを漂わせている。
このミラディア帝国内で〝リタ〟より美しい女性はなかなかいないだろう。
だから〝リタ〟はミラディア帝国の美の女神、なんて少々小っ恥ずかしい名前を付けられているのだ。
「私が美しいのは当然のことですわ。気分がいいからずぅと私がこの部屋からいなくなるその時まで私のことを称え続けなさい」
私は気分のいいフリをしてふふ、と笑い、私を一斉に褒め称えていたメイドたちを一瞥した。
するとメイドたちは一瞬だけ戸惑いの色を見せたが、それはほんの一瞬ですぐに私に悟られないようににっこりと笑った。
「何と光栄なことなのでしょうか。ぜひ、称えさせてくださいませ」
そこからメイドたちは代わる代わる私のことを褒め称え続けた。