悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「何を仰いますか。リタに影武者?そのような者は存在しておりません。もしそのような者がおり、殿下と婚約をしたのなら、我々は皇族を欺いた罪に問われてしまいます。我がルードヴィングは古くから皇族に忠誠を誓っている一族です。そのような裏切り、私がするはずがないでしょう。皇族は絶対なのですから」
「饒舌だね、伯爵。まるで必死に嘘を隠そうとしているみたいだ」
「…んんっ。忠誠心からのものです。私の言い分も聞いて欲しいだけです。決して嘘を隠そうとしている訳ではございません」
殿下に痛いところを突かれて、殿下の相手をしている伯爵様が苦し紛れに言葉を吐き出している。
殿下と伯爵様のただならぬ雰囲気の会話に俺はすぐに扉の向こうの状況を察した。
殿下は今、伯爵様を断罪しているのだ。
殿下なら伯爵様の悪事で命を狙われているステラ様を助けてくれるかもしれない。
俺は焦る気持ちを抑えながらも、殿下と伯爵様の話し声が聞こえる扉のドアノブを握り、回した。