悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「失礼します」
今まさに伯爵を問い詰めていたところに何者かがノックもせず、この部屋の扉を開ける。
扉を開けた人物を確認する為に、扉の方へと視線を向ければ、そこにはリタの専属執事のセスがいた。
セスの登場に机を挟んで向こう側に座る伯爵は怪訝そうに、僕の隣に座るユリウスは相変わらずの無表情で、それぞれがセスに視線を向けている。
「…セス、急にどうした?無礼にも程があるぞ」
「無礼も承知の上でございます。緊急を要することですので」
「緊急だと?」
「はい」
セスを責めるように睨む伯爵の視線など気にも留めずに、セスは僕とユリウスをまっすぐ見据える。
「ステラ様が…いえ、とある方が今リタ様の手によって命を狙われております。ですからどうかあの方を…」
「…ステラ?」
ユリウスほどではないが、表情の乏しい印象のあったセスが切実に僕とユリウスに訴えかける。
そしてユリウスはセスから出た〝ステラ〟という言葉を見逃さなかった。
「ステラをお前は知っているのか」
恐ろしいほど冷たくユリウスが口を開く。
声や表情は冷たいが、その瞳には抑えきれないほどの激情が宿っており、セスを射抜くその視線は学院や帝国中の者から美しいが恐ろしいと評される、ユリウスらしいものだった。
そんなユリウスにセスは「…え、ええ。ステラ様は俺の主ですので」と、ユリウスの迫力に押されながらも、困惑気味に答えていた。