悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
その隙を見逃さず、私は騎士の横をすり抜け、さっさと出口へと駆け出す。
だが、少しだけ後ろの様子が気になったので、ちらりと後ろを見ると、ミラディア帝国の美の女神と称される美しい顔を悪意に歪め、心の底から楽しそうに笑うリタの姿が目に入った。
私はリタに狩られる獲物としてここから逃がされたらしい。
性格の悪いリタのことだ。大嫌いな私を限界まで苦しめ、ゆっくりゆっくり痛ぶり殺したいのだろう。
それでも今はそんなリタの性格に感謝した。リタの性格がもし効率重視の感情なんてないものだったら私は今、リタの手によってあっさり殺されていたはずだ。
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木の葉が生い茂る自然豊かな森の中を私は何とか必死で走り続ける。
久しぶりに踏む土の感触に先ほど予感した通り、足が思うように動かない。
もう1ヶ月以上も車椅子生活を強いられていたのだ。急に以前のように動かせるわけがない。
「はぁ、はぁ」
肩で息をするほど体力は限界に近い。足も鉛のように重く、一歩一歩を踏み出すことでさえ、辛くて辛くてたまらない。
それでもこの足を止める選択肢はない。
止めてしまえばそこで私は終わるからだ。
キースの万能薬も飲んでしまったので最終手段さえもない。