悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「…ロ、ロイ様」
何だか気まずい雰囲気の中、少しだけ向こうから弱々しいリタの声がロイを呼ぶ。
リタの声が聞こえたことによってこの場にいる全員がリタに注目した。
全員の注目を集めたリタにはステンドグラスから降り注ぐ光によって暗い影が落ちている。
そんなリタの表情は悲しみや嫉妬、悔しさなど様々な複雑な感情で歪んでおり、ぼろぼろと涙を流していた。
「ねぇ、ロイ様?アナタは私の婚約者ですわよね?私の未来の旦那様ですわよね?だからそんなどこの馬の骨かもわからない女に愛を囁くわけありませんわよね?…その女はね?私のものなのですよ。私が死ねと言えば死ぬ、そんな存在なのです。そんな存在がアナタに愛を囁かれるなんて…。おかしな話ですわよね?」
泣きながらも笑いながらリタは必死にロイにそう訴えかける。
そしてそのまま何とかロイの方へと行こうとしたが、それは騎士たちに両脇を抱えられていることによって叶わなかった。
「違うよ。僕が愛を誓ったのは君じゃなくてステラだよ。皇帝陛下の元にいたのはステラだ。血判ももちろんステラのものだしね。君じゃないんだよ」
まるで幼い子どもに教えるように優しくゆっくりと、ロイがリタにそう伝える。
だが、優しく見えるのは表面上だけで、リタが認めたくない事実を分かりやすいように、分からせるようにゆっくりと伝えるロイはとても残酷だった。