悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「あ、あぁ。そんな、ロ、ロイ様…。わ、私…」
あんなにも美しく、気高かったミラディア帝国の美の女神リタはもう見る影もない。
愛する者に突き放された絶望がここまで人を変えてしまうのか。
「ス、ステラ…。お、お前さえいなければ…」
絶望したリタは今度はその怒りを私へと向け、私を睨む。
だが、その怨念の視線はすぐにロイがリタと私の間に体を移動させたことによって遮られた。
「ステラがいなければ君はきっと誰にも振り向かれない、哀れで寂しいお嬢様のままだったんだろうね。ステラが影武者になる前の君のように」
優しいロイの声から紡がれた言葉に私は思わず息を呑む。
あまりにも棘のある言葉だ。
いつもと変わらず飄々としているように見えたロイだったが、この様子からしてかなり怒っていたらしい。
そう思えるほど今のロイは攻撃的だった。
ロイの背中があるのでリタの様子はこちらからは確認できない。
しかしロイの向こうから「ゔぅ、ゔ、ああ」とリタの呻くような声が聞こえてきたので、リタが泣き崩れているのだということだけは何となくわかった。
それからリタは両脇を騎士に支えられながらこの屋敷を後にした。