悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




「さて」



一気に暗くなった空気を入れ替えるようにロイが明るくそう言って微笑む。



「これでステラの不安要素は全部消えたね。君を殺そうとしていた者はルードヴィング伯爵も含めてもういない。君が逃げなければならない理由もなくなったという訳だ」



大きなステンドグラスを背にこちらに嬉しそうに微笑むロイは先ほどのリタとは対照的で、まるで一枚の絵画のようだ。
羽のない天使が今まさに目の前にいる。

もちろん見た目だけの話だが。
あの皇太子は見た目天使、中身悪魔だからな。



「ステラ、僕たちは始まりは少し違っていたとはいえ、皇帝陛下の元、正式に婚約式をした仲だ。どうだろう?これからも僕の婚約相手として一緒にいてくれないだろうか」

「え」



本日2度目の「え」が私の口から漏れる。
ロイのとんでもない提案に私はまた固まった。

この皇太子様は何を訳のわからないことを言っているんだ?私は戸籍すらない平民だよ?
そんな平民が皇太子と婚約?未来の皇后?
ないない。絶対にあり得ない。



「確かにロイ様と婚約をしたのは私でしたが、あれはリタ様としてしたものでした。どう考えても無効だと思われます。それに私は平民です。そんな私に未来の皇后なんて務まりません」

「いや、皇帝陛下の元で行われた婚約式だ。よっぽどのことがない限り覆せないよ。それに未来の皇后は君以外に適任なんていないしね。リタの影武者として身につけた教養は完璧だし、君の身分は公爵令嬢なのだから」

「え?公爵令嬢?え?」

「そう公爵令嬢」



おかしそうに私を見つめるロイを私は凝視する。
だがもちろん凝視しても私が何故〝公爵令嬢〟なのかはわからない。

ど、ど、ど、どういうことかな?




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