悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ロイ殿下。ステラは確かに我が家門、フランドルの者であり、公爵令嬢です」
「は?」
訳がわからないままでいると私の頭の上から至って冷静なユリウスの声が聞こえてくる。
さらっと新事実を口にしたユリウスに私はもう本日何度目かわからない間の抜けた声を出した。
「フランドルの者…いえ、家族である俺から言わせていただきます。今回の婚約は無効です。ステラにはまだ婚約は早いですし、落ち着く時間が必要です」
「そうかな?ステラはもう十分フランドルに馴染んでいたじゃないか」
「いえ。まだまだ時間は必要です」
「ステラは19歳だよ。嫁に行ってもおかしくない年齢だ。それなら嫁ぎ先で落ち着いた方がいいだろう」
「…まだ19歳です。それに絶対に嫁ぐとは限りません。一生フランドルでもいいんです」
「それはユリウスの考えだろう?そこにステラの意思はないじゃないか」
「殿下こそ、そこにステラの意思があるのですか」
未だに状況を理解していない私の頭の上でユリウスとロイが変な口論をしている。
にこやかなロイvs不機嫌そうなユリウスの間には不穏な空気が流れ、一触即発状態だ。
どうしてこんなことに。
そもそも私の話をしているはずなのに一番私が状況を理解しておらず、置いて行かれているこの展開はどうすればいいのだ。
「ステラ様。俺はアナタの執事です。ですから、どこへ行くとしてもどうか俺をお側に置いてください」
皇太子と次期公爵が変な言い争いをしているというのに、そんな2人なんてそっちのけでセスが私に真剣に訴えかける。
「ステラは俺の家族です。ですから家族である俺の意見こそ優先されるべきです」
「ユリウス、それは違うよ。優先されるべきは未来の旦那である僕だよ」
「アナタのお側で死なせてください」
カオスだ。
三者三様の自由すぎる様子に私は1人頭を抱えた。