悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「…まだ時間はある。もう少しこのままでもいいだろう?」
「…」
まただ。
ユリウスはいつもこうなのだ。
少しでも時間があるならば、いつもこうして私から離れることを拒む。
離してと言ったはずなのに、ユリウスは絶対に離さないと言わんばかりに私を抱き締める腕に力を込める。
それから私の頭に自分の頬を寄せた。
…大きな子どもを相手にしている気分だ。
やっぱり兄らしくない。どちらかといえば弟だ。
そもそも年齢的にも私が姉なはずのだ。
「い、い、わ、け、な、い、で、しょっ!」
私を抱き締めるユリウスの胸を今度は力いっぱい押してみるが、やはりびくともしない。
~っ!この馬鹿力っ!
全く動かず、むしろさらにきつく私を抱き締めるユリウスにいよいよ殺意を覚えていると、ベッドの横に人影が現れた。
「おはようございます、ステラ様」
未だに寝間着である私たちとは違い、キッチリとした執事服に身を包むセスがこちらに微笑む。
そしてセスはいつものように私に挨拶をすると、私の言葉など待たずに、私たちの布団をガバッと勢いよく剥いだ。
それにより私とユリウスは強制的に布団から体が出て、朝の肌寒い空気にさらされる状態になった。