悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ユリウス様、俺のお嬢様であるステラ様が困っております。早急にその手をお離しください」
「…」
「ステラ様には朝食へ向けての準備もございます」
「…」
「ユリウス様、そんな目で見られても無駄です。俺の主はステラ様のみ。ステラ様の命令しか聞き入れるつもりはございません」
私に向ける微笑みとは違い、何も感じさせない表情で私を離すように訴えかけるセスにユリウスが無言の圧力をかけている。
この帝国中の誰もが震え上がるのではないかと思うほど、美しく冷たいユリウスの圧にもセスは何故か屈さず、ただ淡々としていた。
どんな心臓をしているのだろうか。
強い心臓の持ち主、セスに感心していると、ユリウスはやっと名残惜しそうに私を離した。
ユリウスから解放されたことによって、私はようやく体を起こす。
そんな私にセスが「お手をどうぞ」と手を差し伸べてきたので、私はいつも通りその手を取った。
そんな時だった。
「ちょっと!セス様!」
突然、出入り口の扉の方から愛らしい声の持ち主の不満げな声が聞こえてくる。
「ステラ様専属メイドである私を差し置いて何ステラ様のお世話を焼こうとしているんですか!私がステラ様のお世話をするんです!」
それから怒っている様子の愛らしい声の持ち主、メアリーはずんずんとこちらに歩いてきた。