悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ふふ、2人は本当に仲がいいね。リタのこんな姿、ユリウスの前でしか見られないね。さすが学院一のライバル同士だ」
険悪な俺たちの間ににこやかなロイ殿下が入る。
ロイ殿下はいつも通り穏やかな笑顔なのだが、その心が本当に穏やかなのかはわからない。
うまく本心を隠すタイプだ。
「しかしユリウス。リタとの口論は楽しいかもしれないが、あまり私の愛しの婚約者をいじめないでくれ。せめて手加減を頼むよ」
「はいロイ殿下」
表面上はにこやかなロイ殿下に俺は軽く頭を下げる。
あの女に手加減などいらないと思うが、ロイ殿下のことを無視することはできない。とりあえずこちらも表向きだけは従うフリをしておこう。
「ロイ様ぁ、私、傷つきましたぁ」
「…謝罪もいいかな?ユリウス」
うるうるとその紫色の瞳を潤ませてリタ嬢がロイ殿下に俺の非を訴える。
するとロイ殿下は困ったように笑って、こちらを申し訳なさそうに見てきた。
「…申し訳ございませんでした、リタ皇太子妃様」
ロイ殿下に言われてしまっては仕方ない。
俺は不本意だが、リタ嬢に深々と礼儀正しく頭を下げる。
すぐに顔をあげるとそんな俺をリタ嬢は満足げに見ていた。
自分の力では何もできないくせに。
いや、本来なら何でも自分でできる女だったのに、何故こうもできないのだろう。