悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ユリウス、今少し時間はあるかな」
「はい」
ロイ殿下にそう言われて俺はすぐに返事をする。
午後からは学院へ行かねばならないが、まだ宮殿にいても大丈夫だろう。
「よかった。じゃあユリウスあそこの部屋で少し話そう」
ロイ殿下は俺の返事を聞くなり近くの部屋を指差す。
するとその行動にリタ嬢が不満げに声を上げた。
「え?ロイ様?これから私と昼食のはずでは…」
「ごめんね、リタ。ユリウスと話したいことがあるんだ」
「ですが、私…」
そこまでリタ嬢が言ったところでロイ殿下はリタ嬢の耳元へ自身の唇を近づけた。
リタ嬢に何かを言っているようだが、こちらからは何を言っているのかわからない。
側から見れば愛を囁かれている恋人にしか見えないが、囁かれている張本人であるリタ嬢の表情がどんどん暗くなっていくのを見て、そうではない可能性も十分にあると俺は思った。
「わかりましたわ。殿方は殿方同士で有意義な時間をお過ごしくださいませ。私は学院へ向かいますわ」
先ほどの姿が嘘かのようにロイ殿下に礼儀正しく挨拶をしてリタ嬢がこの場から離れる。
「それじゃあ行こうか」
「…はい」
リタ嬢の背中を見送った後、俺とロイ殿下は先ほどロイ殿下が指名した部屋に入っていった。