悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「そもそも俺はステラと殿下の婚約についても反対です。ステラはまだ我がフランドルに来たばかり。こちらでの生活にしっかりと慣れる必要があります。無理をさせるべきではありません」
「そうだな、ユリウス。私もそう思う。ステラはまだ19、婚約を決めるのはいささか早計だ」
ユリウスと公爵が真剣な表情で頷き合っている。
今のユリウスと公爵、それから夫人の様子を見ればわかる通り、フランドル公爵家では夫人以外全員私の婚約に反対だった。
何となくユリウスは反対しそうだな、とは思っていたが、まさか公爵まで反対するとは思っておらず、最初はかなり驚いたものだ。
「何言っているの?ステラはもう19歳よ?私がダリルと婚約したのだってそのくらいだったわ」
「だが、ルーシー。ステラはまだ我がフランドルに来たばかりで…」
「それと婚約することの何が関係あるというの?」
「…」
夫人ににこやかに責められて、ついに公爵がその形の良い口を閉じてしまう。
それから夫人は公爵から私の方へと視線を移した。
「ねぇ、ステラ?アナタは殿下との婚約をどう考えているの?」
「え」
まさか自分に話が振られるとは思わず、今まさに口に入れようとしていたトマトを寸前で止める。
そしてそのまま視線を彷徨わせ、私は気まずそうに口を開いた。