悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「…私には荷が重いですね。正直、公爵様やユリウスの意見は有り難いです。できれば婚約破棄できるように働きかけてもらいたいんですけど…」
自分の言いたかったことを遠慮がちに伝え、公爵と夫人の反応を見る為に前を見てみる。
すると公爵と夫人はショックを受けた様子でこちらを見ていた。
夫人があの表情を浮かべている理由はわかる。私がロイとの婚約について前向きな回答をしなかったからだろう。
だが、何故公爵まで同じような表情を浮かべているのか。
状況が飲み込めず、何となく、ユリウスの方も見てみたが、ユリウスは至って普通、いつもの無表情のまま、パンを一口サイズにちぎり、口へと運んでいた。
「…ス、ステラ。わ、私のことを呼んでみてくれないかしら?」
「…?ルーシー様?」
「あ、ああ…」
首を傾げながらも夫人の名を呼んでみると、辛そうに夫人が自身のこめかみを押さえる。
え、ええ?
急にどうしたんだ?
夫人があまりにも辛そうにしているので、おろおろしていると、夫人はゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「わ、私たちは家族よ。そんな他人行儀な呼び方はやめて。私とダリルのことはお母様、お父様と呼んで…?」
この世の終わりだ、と言いたげな顔で夫人が私にそう言う。
一体何が起きたのかと思えば、まさかのどうでもいい内容に私は思わず拍子抜けした。
全く本当にどうでもいい話だ。
呼び方にいろいろ言ってくるところも本当にユリウスとよく似ている。
ユリウスも最初は様付けで呼ぶと「様を付けるな」ととてもうるさかったものだ。
夫人の横で無言で頷く公爵と悲しそうにこちらを見つめる夫人に、私は心の中で苦笑いを浮かべる。