悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「わかりました。お母様、お父様」



だが、表向きはにこやかな笑顔を作り、目の前に座る夫人と公爵をじっと見つめた。



「はぁい。お母様ですよ?」

「…」



私に改めて希望通りに呼ばれ、夫人は本当に嬉しそうに笑い、公爵は無表情だが満足げに頷いている。
私の新しい家族は私を本当の家族と認め、私に愛情を持っているみたいだ。

そんな大人からのまっすぐな愛をステラとして受け取ることは生まれて初めてだったので、どうすればいいのかわからなかったが、私はその愛がむず痒くて、でも嬉しくて嬉しくてたまらなかった。



*****



公爵一家全員での朝食後、まだ宮殿に行くには時間があったので、フランドル公爵邸内の中庭で、たまたま時間の空いていたユリウスと共にベンチに座り、私は談笑をしていた。

…まぁ、本当にユリウスの時間がたまたま空いていたのかは正直不明なところはあるが。
ユリウスはとにかく自分の時間を削ってでも、私との時間を作ろうとするところがあるので、ユリウスの言葉を言葉通り受け取ることはできない。



「それでそこにいた猫がね、それはもう見事な白色で、何と水色と黄色のオッドアイだったの。すっごく可愛かったんだよ。ユリウスにも見せたかったな」

「…そうか。猫飼うか?」

「違う違う。猫が飼いたい話じゃなくて可愛くて珍しい猫を見たよって話しで…」

「そうなんだ。僕もその猫見たかったな」



ユリウスとの会話に、突然後ろから誰かが加わってきたことにより、私は驚きで目を見開く。
そして声の方へと振り返れば、そこにはこちらに微笑む、天使…ではなく、皇太子、ロイがいた。

な、何でロイがここに?



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