悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
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それから中庭のお茶会会場に着くと、私とロイは机を挟んで向き合う形で座り、苺のデザートとお茶を堪能しながらも世間話に花を咲かせていた。
ロイとの婚約は不満だが、別にロイのことが嫌いだというわけではない。
むしろロイとの時間は普通に楽しく、時間もあっという間に過ぎていった。
「結婚しようか、ステラ」
「…っ!はい?」
突然、美しい笑みを浮かべ、甘い瞳でそんなことを言ってきたロイに思わず口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
だが、私はそれを何とか堪えて飲み込むと、この帝国の皇太子であるロイに怪訝な視線を向けた。
急に一体なんなんだ。
「…申し訳ありませんがロイ様と結婚はできません。そもそも私はこの婚約を破棄するつもりなんです」
「破棄?どうして?」
「私は孤児出身です。身分が違いすぎます」
「今は公爵令嬢じゃないか」
「元はどこの馬の骨かもわからない者です」
「元はだろう?今は公爵令嬢だよ」
「…」
何を言っても、返答を変えないロイに嫌気が差し、露骨に嫌な顔をする。
この皇太子には〝元孤児〟という肩書きは何の意味もなさないらしい。
では攻め方を変えよう。