悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




「…愛してもいない人と結婚なんてしたくないですよね?ロイ様はこの帝国の皇太子であり、次期皇帝です。ロイ様よりも強い権力を持つ者など、今の皇帝陛下しかおりません。ならば公爵令嬢と結婚しなくてもいいはずです。愛する人と結婚すべきです」



スッとすました顔を作り、淡々と私はそう言う。
私は今、完全に文武両道才色兼備完全無欠と称えられたあの頃のリタだった。
誰にも反論の余地を与えないそんな雰囲気を意図的に作る。



「ステラは本当に意地悪だね?僕の気持ちなんてもうわかっているだろう?」

「…わかっていません。アナタはいつも本当のこと言っているように嘘をつきますから」



困ったように笑うロイに私は厳しい視線を向ける。
ロイの言う通り、本当はロイの気持ちなんてわかってしまっている。
だが、気づかないフリをするのだ。
そうでなければ、私はこの天使の皮を被った悪魔の皇太子様から逃れられない。



「…ああ、愛らしいね、ステラ」

「…」

「そうやってまっすぐ僕を見つめる君も魅力的だよ」

「…見つめてません。睨んでおります」

「君の視線ならどんなものだって僕にとっては甘いものだよ」

「…」



…こいつ。

ロイにとっては私が何をしても〝愛らしい〟らしい。
いつものように優しく微笑み私を見つめるルビー色の瞳があまりにも甘さでドロドロとしており、嫌気が差す。




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