悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「まあユリウス!ステラとそんな話をしていたの?聞いていないわ!」
「説明をしてくれ、ユリウス」
私の話によって話の中心が私からユリウスへと変わる。
私の隣で優雅に夕食を口にしていたユリウスはその手を止めて自身の父と母を見据えた。
「ステラを保護して1週間の頃、ステラからここを出て家に帰ると言われました。しかしステラには帰る家などありません。ですからあの時はステラを一時的にでも引き止める為に〝せめて完治するまで保護させてくれ〟と言いました。決して完治し次第ここを出ろという話はしていません」
「そうだったのね!」
「…っ!」
ユリウスの淡々とした説明に、よかった!と素敵な笑顔で安堵する夫人とは正反対にユリウスの横で信じられない!と私はユリウスを凝視する。
ユリウスは最初から私の保護をやめるつもりはなかったのだ。
「完治したってここにいればいいじゃない。ステラの家はもうここなのよ?帰る家もないんでしょう?」
「そうだぞ。ユリウスから話は聞いている。ステラには戸籍がないそうじゃないか。つまりスラム出身なのだろう。であるならばここにいた方がステラも幸せじゃないか」
夫人がにこやかに、公爵がユリウスそっくりな冷たい表情で私に矢継ぎ早に言葉を浴びせる。
2人とも本当によくしてくれるし、私を何故か気に入り、それぞれのやり方で可愛がってくれるので少しむず痒い気持ちになってしまう。
私の人生の中で誰かに大切にされた記憶がないからだ。