悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「確かにここでの生活は私にとっては夢のようでした。ですが、私は戸籍さえないスラムの子どもなのです。そのような人間が公爵邸でこのような待遇を受けるのはおかしい話なんです」
どうにかここから出られるようにと私は苦笑いを浮かべながらもそれらしい言葉を並べる。
スラム出身ではなく正式には孤児院出身だが、どちらにせよ戸籍がないので、スラム出身と名乗ってもいいだろう。
ここでの生活は文字通り夢のような生活だった。
三食食事付きで常に清潔な部屋での生活。
好きな時間に好きなことができて、何と1ヶ月前からは素性の知れない子どもの私に家庭教師を付け、貴族の一般教養まで学ばさせてくれた。
また一般教養だけではなく、剣術を習いたいと言えば剣術の先生をわざわざ雇って私に付けてくれた。
ここでの生活は本当に楽しい。
だが、長居をすれば必ずルードヴィング伯爵に見つかり、そのまま殺されてしまう。
そうならない為にもここから出なければならない。
それなのに。
「夢のようだと思うのならその夢に浸っておけばいいだろう。何故、それを拒む?」
ユリウスが私をおかしなものでも見るように見つめる。
その黄金の瞳には困惑している私が映っていた。
「…おかしいからだよ。本来私はここに相応しくない人間なの」
「おかしくないだろ」
「おかしいよ!」
不思議そうに首を傾げるユリウスに思わず大きな声を出してしまう。
本当はこんな声出したくないのだが、あまりにも今目の前にいる男がマイペースすぎてツッコまずにはいられない。