悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「やったぁ!」
「そこで何をしている」
達成感と嬉しさのあまり塀の頂上に立ち、喜んでいると塀の向こう側、公爵邸外から聞き慣れた声が私に話しかけてきた。
嫌な予感と共にゆっくりと声の方へ視線を向ければそこにはいつもの冷たい表情でこちらを見つめるユリウスの姿があった。
その黄金の瞳には少しだけ怒りの色がある。
「あ、遊んでいるの…。塀をよじ登って遊ぶ遊びなんだけど街で流行っているんだよー」
へへ、と引きつった笑みをユリウスへ向けてみる。
するとユリウスはただ一言「へぇ」と呟いた。
し、信じませんよねぇ。
まさか逃げようとしているところを1番見られたくない人に見られてしまうなんて。
「こっちに降りて来い」
「え」
「いいから」
塀の上でどうしたものかと悩んでいるとユリウスが両手を広げで私を受け止めようとしてきた。
そんなことをしなくても自分で降りられるのでユリウスの提案に困惑してしまう。
反対側、公爵邸側に戻ろうかな、とも思ったが両手を広げて今にも私を受け止めようとしているユリウスを見るとその選択をするのは何だが申し訳なくなってきた。