悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




「…あ」



リタ嬢だ。
自分よりも大きな男に果敢に立ち向かうステラの姿を見て、かつて共に切磋琢磨していたリタ嬢の姿を思い出した。

ここ数ヶ月、剣を振るうリタ嬢を見ていなかったので忘れていたが、リタ嬢もこんな風に剣を振るっていた。

小さな体ではあったが、逆にそれを利用して早く動いたり、相手の動きを読んで次の一手を打ったりする、それがリタ嬢の剣術のスタイルだった。
純粋な力でこそ俺には勝てないリタ嬢だが、そうやって隙や勝ち筋を見つけて何度か俺からも勝ちを取ったことがある。

あの頃はリタ嬢の負けん気やスタイルが面白く、楽しみながらリタ嬢とよく剣を交えていた。

だが、今のリタ嬢はどうだろう。
いつの間にかあんなにも好きだった剣術を辞めてしまった。
また自分は優秀だから、皇后教育が忙しいからだとか言い訳を並べて学院の授業に出さえしない。
そんなことを言っているかと思えば、社交界には顔を出し、社交界の花のように振る舞っていた。

以前までは苦手な部分もあるが、聡明な部分もあり、良き競争相手としてリタ嬢を認めていた。
だが、今はそれもない。わがままで傲慢なリタ嬢にはただただ苦手意識と嫌悪感があるだけだ。

ステラは聡明だったリタ嬢によく似ていた。
立ち振る舞いや剣術の動きなど不意にリタ嬢と重なって見えてしまう場面が今日のように何度もあった。

性格も見た目も年齢さえも何もかも違うのにどうしてステラがリタ嬢に見えてしまうのだろうか。



「ユリウス?」



リタ嬢とステラについて考えているといつの間にかステラが俺の存在に気づいてこちらを不思議そうに見ていた。




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