悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「リタ様は性格の悪い悪女だと有名ですが、それと同時に文武両道、才色兼備、非の打ち所のない聡明なご令嬢でもあると有名でございました。
それがここ最近全くそのような姿をお見せにならないのだとか。まだ学院生であるにもかかわらず、学院の授業には一切出す、宮殿に篭って皇后教育に励んでいらっしゃるらしいんですが、忙しいと仰っている割にはパーティーや舞踏会、お茶会には必ず参加し、演劇鑑賞、ショッピングなど遊んでいらっしゃる姿も多く見られているのです。
この間の花祭りの時も使用人といつまでも遊んでいらしたとか」
止まることなく、怪訝そうに話を進めるメアリーの話を聞いて私は「やっぱり」と納得する。
結局、今まで世間が評価してきた〝リタ〟は私なのだ。
そんな私が消えてしまえばやはり本物のリタの評価はそうなってしまうだろう。
もう少しボロが出ないように伯爵辺りがいろいろと手を回すだろうと思っていたが、持ってまさかの数ヶ月とは。
リタの奔放さも呆れを通り越して尊敬してしまう。
どの道、あのわがままお嬢様を優秀なご令嬢として仕立てることは無理な話だったのだ。
私のような代役がいない限り。
今のリタの現状に呆れて笑っていると、メアリーは今度はロイの話を始めた。
「そしてロイ殿下なのですが、ロイ殿下は相変わらずお優しく天使のように…いや、もう神様のように素晴らしい方で、リタ様のような変化はないと言われております。ですが、そんなロイ殿下にもある噂があるのです。先ほどもメイドたちが言っておりましたが、ロイ殿下はどうやら誰かを探しているようなのです」
「その誰かって?」
「それが誰もわからないのです」
私がメアリーから聞きたかったことはこれだ。
先ほどメイドたちが話していた話の中には〝ロイが誰かを探している〟というものがあった。
皇太子自らが探す重要人物とは一体誰なのだろうか、とメアリーに聞いてみたが、メアリーもどうやら誰を探しているかまでは知らない様子だった。
犯罪者なら指名手配されているだろうが、その指名手配の情報はない。
ならばロイが探しているのは犯罪者ではなく、帝国にとって何か重要な人物ということになるだろう。
この帝国の情勢を知る為にもロイが誰を探しているのか知りたかったがそれは今は無理そうだった。