悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




「その話って噂だよね?本当に皇太子殿下が誰かを探しているの?」

「それは間違いありません!街でロイ殿下が自身の騎士団を連れ、誰かを探している姿を見かけた者が多数います。私も何度かこの目で見ました」

「へぇ」



間違いない!と自信満々に私を見つめるメアリーに私はとりあえず頷く。
そこまで大々的に探しているのならきっといつかは誰を探しているのか知ることになりそうだ。

あまりにもこの公爵邸に囲われている私はもうすっかり世の中の流れを知らない箱入り娘になってしまった。
このままではここから出た時に違う意味で苦労しそうだ。やはりこうやってせめて周りの人たちから帝国で起きている出来事くらいは教えてもらわなければ。

そんなことを考えながらもずっと作り続けていた花冠がついに完成する。
私はそれを「はい、いつもありがとう、メアリー」と言ってメアリーの頭に乗せた。



「まぁ!まぁー!な、何ということでしょう!まさか私の為に作られていたなんて!か、感動で今にも倒れてしまいそうです!ありがとうございます!ステラ様!」



喜びで小さく震えているメアリーに私はふふと笑う。本当にメアリーは可愛らしいメイドさんだ。
別に最初からメアリーにあげようと思って作っていた訳ではないが、メアリーの喜ぶ姿を見て、本当のことは言わないでおこうと思った。

それから私は花畑でいろいろな遊びをした。
花冠をまた作ったり、花束を作ったり。
寝転がってみたり、走り回ってみたり。
とにかく思いつくことをたくさんした。

8歳からリタの代役だった私は時には伯爵家の令嬢として、時には世間に絶対にバレてはならない存在として生きてきた。
こんなにも自由に走り回った記憶はもうずっと彼方にあったものだ。

…公爵邸にいることも悪くないな。
命の危険さえなければずっと甘えたいくらいなのに。

そんなことを思いながらも私は自身の両腕いっぱいに花びらや花を集めていた。




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