悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ロロロロロロイ殿下!」
メアリーはロイの突然の登場に焦ったようにそう言ってその場で深々と頭を下げた。
「君の名前はリタなのかい?」
そんなメアリーを一瞥してロイが私の元へやって来る。
先ほど私がつい癖で〝リタ〟に反応してしまったからそう言っているのだろう。
「…リタ?」
私は咄嗟に〝リタ〟など知らない、と困ったような表情を浮かべた。
「ああ、違うんだね。ごめんね、よく似ていたから間違えてしまったよ」
そんな私にロイが甘く笑う。
天使のような見た目のロイとその後ろに広がる花畑は相性抜群で、まるで私の目の前に本当に天使が現れたのではないかと錯覚してしまうほどその光景は美しく、現実離れしていた。
私がリタの時に知ったロイの本性を知らなければ今頃彼に骨抜きにされていたことだろう。
「僕の名前はロイ・ミラディア。君の名前を聞かせてくれるかな?」
私と目線を合わせるように少し屈んでロイがその特徴的なルビーの瞳で私を見つめる。
まさかこの瞳にまた見つめられる日が来るとは。
あの夜が最後だと思っていたのに。
「…ステラです」
「ステラか。素敵な名前だね」
控えめに笑い、自分の名前を口にするとロイは私にふわりと笑った。
一体、何を企んでいるのだろうか。
この腹黒皇太子が何の理由もなく、こんな公爵邸から離れた場所に来るとは思えないし、よくもわからない子どもと関わろうともしないはずだ。