悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「君は踊りが上手だね。フランドル公爵家の踊り子かな?どうだろう、僕と友だちになってくれないかな?」
「え」
驚く私なんてよそにロイが私の目の前に跪く。
そしてまるで絵本に出て来る王子様のように私の右手を手に取った。
王子様じゃん…。
すごい。女の子の憧れの化身じゃん。
「あ、は、はい」
予想外のロイの提案を断る訳にもいかず、私は戸惑いながらもロイの提案を受け入れる。
まあ、どうせもう関わることのない雲の上の人物なのだから適当に合わせておくことが無難だろう。
「よかった。それじゃあ友だちとしてお願いしたいんだけど我が宮殿に来て先ほどの舞を披露してくれないかな?」
「お断りします」
ついさっき適当に合わせようと思った私自身に心の中で往復ビンタをする。
ロイに合わせているととんでもないことになる。
ロイの提案を笑顔でバッサリと断った私にロイは一瞬だけ驚きで目を大きく見開いたが、すぐにいつもの優しげな笑顔に戻った。
「どうしても駄目かな?僕はステラの舞に惚れ込んでお願いしているんだけど…」
こちらを伺うように笑っているロイに私はただただ拒絶の意味も込めて黙ったまま微笑む。
宮殿に何て行くものか!
あそこにはロイの婚約者のリタがいる。それに帝国中から貴族が集まる場所なので当然ルードヴィング伯爵だっているだろう。
そんな危険しかない場所行くわけないではないか。
「お断りします」
なかなか諦めないロイにもう一度そう言って笑うとロイは「はは、これはなかなか手強いな」とどこか楽しそうに笑っていた。
…あの笑顔は自分の思い通りにならない展開を楽しむ笑顔だ。
私はもしかしたら厄介な相手に気に入られてしまったのかもしれない。