悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
*****
僕が宮殿に着くと玄関先にはいつものようにリタが待っていた。
「お帰りなさいませ!ロイ様!」
僕の姿を見つけてリタが嬉しそうに笑う。
リタは僕と婚約してからというもの暇さえあればすぐに僕に会いに来て、ずっと僕の側を離れようとしなかった。
まだリタはここには住んでいないのだが、もうほぼ住んでいるほどリタはこの宮殿に入り浸っている。
「ああ、ただいま。僕の愛しいリタ」
僕に駆け寄って来たリタの手を取り、チュッとキスをする。そんな僕を見てリタは「まぁ!」と今日も機嫌良く頬を赤く染めた。
こんなことをするのも彼女との婚約の契約があるからだ。僕は人前でだけは絶対に彼女を最低限でも婚約者として扱わなければならない。
僕が愛していたリタにならこの約束も全く苦ではないが、今のリタ相手ではあまり気が進まない。
契約さえなければ放っておきたい女だ。
「本日はフランドル公爵邸に行かれたのですよね。お仕事の方はいかがでしたか?」
「…そうだね。まあ、いつも通りかな」
リタにフランドル公爵邸のことを言われて、またステラのことを思い出す。
あの花畑はフランドル公爵の言う通り素晴らしいものだった。
まさか花の妖精までいるとは思いもしなかったな。
「あら?本当にいつも通りだったのですか?とても嬉しそうにしていらっしゃいますけど?」
僕の変化に気づいたようでリタはその以前までは愛らしいと思っていた猫目をすぅと細めて笑う。