悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「ステラはステラだろ」
不思議そうに私を見るユリウスに私は心の中で盛大にため息を吐く。
違う。そういう意味ではない。
この鉄仮面の皮を被った天然め。しっかりしてくれ。
「…そうじゃなくて。私が何者か知りたいの。何者でもない私がここにいる意味は何?」
あわよくば意味を見出せず、この家から出て行かせて欲しい。
もうロイとも会ってしまったのでルードヴィング伯爵と会ってしまうのも時間の問題だろう。
そう思いながら強くユリウスを見るとユリウスは自身の顎に指を添えて何か考え事をし始めた。
「…」
私はそんなユリウスを固唾を飲んで見守る。
いいぞー。いいぞー。考えるんだ、ユリウス・フランドル。そして今の状況のおかしさに早く気がつくんだ。
ユリウスに念を送り続けているとユリウスはその形の良い口をやっと動かした。
「いもう…いや、そうだな、俺の専属護衛でどうだ」
ん?
相変わらず無表情なユリウスの発言に私は思わず変な声が出そうになる。
ツッコミ所がこの短いセリフの中に2つもあった。
まずは私のことを〝妹〟とおそらく言おうとしたこと。
そして最終的に〝専属護衛〟に収まってしまったことだ。
妹扱いに磨きがかかってきたとは常日頃から思っていたが、まさか本当に妹ポジションに収めようとしていたとは思わなかった。
さすがに素性の知れない子どもを今すぐに公爵家の娘にするのは無理だと判断した結果が、まさかのユリウスの〝専属護衛〟だ。それはそれでおかしな話である。
いろいろと。
「…最年少で騎士団に所属した天才騎士様を一体何から守ればいいんですか?」
「…いろいろだ」
「ふーん」
責めるようにユリウスに質問するとユリウスからは曖昧な答えが返ってきた。
何も考えていなかったことが丸わかりだ。
やはり、ユリウスを始め、フランドル公爵も夫人も何故か私を手放そうとしない。
ここはもう念入りに計画を立てて脱出を試みるのが正解だろう。