悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「んー。そうか…。じゃあ気が向いたらぜひ我が宮殿に来て欲しいな。それで次何だけど君の好きな食べ物は何かな?」
「…苺、ですかね」
「うんうん。可愛らしいね。苺は甘酸っぱくて美味しいよね。宮殿には宮殿お抱えのシェフがいるんだけどそのシェフの料理はどれも絶品でね。宮殿の為に作らせた最高級の苺で作られるシェフの苺タルトはもうそれはそれは素晴らしく、他では食べられない美味しさがあるんだよ」
「…へぇ、凄いですねぇ」
「そうだろう。どうかな?うちに食べに来ない?」
「…お断りします」
にこやかなロイに何とか笑顔で私は答え続ける。
何でこの皇太子様は私をどうしても宮殿に呼びたいのだろうか。
この後、こんな感じの会話を約1時間も続けることになるとはこの時の私は思いもしなかった。
*****
「それじゃあステラまた。気をつけて帰るんだよ」
「はい。ロイ様もお仕事頑張ってください」
ロイが美しく私に微笑みながら手を振る。
私はそんなロイに同じく表面上だけ何とか笑顔を作って手を振った。
もう疲労困憊だ。疲れた。
事あるごとに宮殿へ来るように誘われ、皇太子の誘いを無碍にできる訳もなく、それを毎度毎度ご丁寧に断り続け、この1時間で精神的疲労が溜まりに溜まってしまった。
「…はぁ」
ロイと別れた後、私は小さく息を吐いて疲れた瞳でぼんやりと空を見上げる。
カフェに入る前に広がっていた青い空がもうオレンジ色に変わっている。夕方だ。
帰ろう。
公爵邸周辺の街の構造や治安は何となくわかった。
あとは一度帰ってこの情報を地図に落とせば今日のミッションはコンプリートだ。
いろいろと考えながらも公爵邸の馬車へ向かって歩いているとそれは突然私の耳に入ってきた。